光行差(こうこうさ)という現象を知っていますか?

1728年に、イギリスの天文学者ジェームズ・ブラッドリーが発見した現象で、季節によって星の位置がずれて見えるというものです。

この原理自体は難しくないのですが、ちょっと納得しずらい結果で、天文学者を悩ませたという過去があります。

その光行差の説明と何が不思議だったのか、簡単に説明してみようと思います。

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光行差の発見は偶然から

イギリスの天文学者 ”ジェームズ・ブラッドリー” は、地動説の証拠となる「年周視差」を観測するために、精密な天体観測をしていました。

年周視差というのは、地球が太陽の周りを回っているのなら、季節によって星の位置がずれて見えるはずだというものです。

年周視差

≫≫コペルニクスの地動説はコペルニクス的転回だったのか?

季節によって星の位置がずれることを発見

そして、ブラドリーは、季節によって星の位置が僅かにずれることを見つけました。

最大で100分の1度というわずかなずれです。

でもそのずれ方は、年周視差で予測されるものと全く違ったのです。

ずれる方向が違う

年周視差では、星の位置が太陽の方向にずれるはずです。

しかし、ブラッドリーが観測したずれは、太陽の方向と90度違う方向でした。

地球が太陽の周りを回っているとき、地球の進行方向に向かって星の位置がずれるのです。

光行差の仕組み

なぜ、このようなずれが起きるのかは、ブラッドリー自身が解明しました。

よく例えに使われるのが、雨の中を走る場合です。

風がなく雨が真上から落ちてきているときに、その中を走ると体の前面が濡れます。

傘を差しているのなら、真上ではなく少し前方に傾けなければ濡れてしまいます。

この時の雨が光で、走っている人が地球です。

望遠鏡の角度

真上にある星を観察する場合を考えてみましょう。

地球は公転して動いているのですから、光が地表に近づいている間にも地球ごと望遠鏡も移動します。

もし望遠鏡を真上に向けていると、光は望遠鏡の筒の中を通しぬけることはできません。

しかし少し前方に傾けていると、光が筒の中を通り抜けてくれます。

光行差

これが光行差の現象です。

季節が変わると地球が動く方向が変わります。

春に観察した時の望遠鏡の向きと秋に観察したときの望遠鏡向きは正反対になります。

そのため、季節によって星ほ方向がずれて観察されたのです。

光行差季節変動

実際の星の角度θからaだけずれて見える、これが光行差なのです。

光行差の式

ブラッドリーは、光行差を求める式を理論的に導きました。

充分正確な近似式は下のような式です。

a=\frac{v \sin\theta}{c}

aが光行差による角度のずれ、vは地球の公転速度、θは本当の星の角度、cは光の速度です。

そして、観測データと理論式を比べることで、ブラッドリーが発見した星の位置のずれは光行差によるものだと確認できました……とスムーズにいったのならよかったのですが。

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光行差はそう簡単ではない

光行差の原因を想定して理論式を立てて観測値と比較する、代表的な科学的手法です。

でも、光行差の場合はそんなに簡単にいかないのです。

観測値と理論式が合っているのか確認できない

理論式と観測データをどうやって比べればいいのでしょうか?

式に含まれているのは次の数値です。

  • 光行差による角度のずれ
  • 地球の公転速度
  • 本当の星の角度
  • 光の速度

それぞれの観測データを代入して、計算式に合っていれば理論通りとなります。

しかし、この中に値がわからないものがあります。

光の速度です。

でもブラッドリーの時代は、光の速度が有限だということはわかっていましたが、速度自体は知られていませんでした。

全ての数値を入れて式と合っているかどうか確かめることはできなかったのです。

でも光行差が原因

しかし計算の結果、ブラッドリーが見つけた星の位置のずれは光行差によるものだと結論つけられました。

光の速度がわかりませんが、その他のデータを入れることで

光行差が原因だとすれば光の速度はいくらになる

という結果を計算することができます。

すると、どの星のデータを使っても光の速度は同じという計算結果になったのです。

これは偶然とは考えられにくいので、星の位置のずれは光行差によるものだと判断されました。

ブラッドリーのデータから計算された光の速さは、約30.1万キロメートル/秒で、現在知られている光の速度の非常に近いものです。

いってみれば、ブラッドリーの光行差は光の速度を測定した実験のようなものだったのです。

なぜ光の速度が同じなのか?

どの星からの光でも速度が同じという結果になったことから、ブラッドリーの式は正しいと判断されたのでした。

でも疑問が残ります。

なぜどの星からの光でも速度が同じなのでしょう。

ブラッドリーは光は粒子だと考えていました。

粒子なら、地球に近づいている星からの光は速く、地球から遠ざかっている星からの光は遅くなるはずです。

全て同じだということは、星は地球に近づいたり、遠ざかったりしていないということでしょうか?

でも、星が動かないとする理屈は何もなく、それは考えずらいことでした。

痛しかゆしの結果

星によって光の速さが違ったとしたら、ブラッドリーの式の正しさを確認することはできませんでした。

同じだったからこそ確認できたのです。

でも今度は、光の速度がなぜ同じになったのかを考えなくてはいけないという痛しかゆしの結果だったのです。

光は波だった

星の移動

1805年に ”トーマス・ヤング” が光の干渉実験を行い、光は波だという考えが主流になりました。

もし光が粒子ではなく波なら、ブラッドリーの結果は納得しやすくなります。

波の速さ

波は、媒質の中を一定速度で伝わります。

音の速度は空気に対して一定の速度で伝わります。

音を発した物体が動いていても関係ありません。

光が波だとすれば、星が動いていたとしても光の速度は一定なのです。

太陽の動き

でも、まだ少し気になることがあります。

太陽の動きです。

波は、波を伝える媒質に対して一定速度で伝わります。

もし、太陽が媒質に対して動いていれば、進行方向と逆方向で光の速度が変わってしまいます。

音が空気に対して一定の速度で伝わるなら、空気の中を動いていると前方からの音の方が速く観測されるのと同じです。

でも、光の速度は全ての方向で一定でした。

もちろん実験誤差があるので、誤差範囲で一定だということです。

その結果、太陽は光を伝える媒質(エーテルと呼ばれていました)に対して誤差範囲内で停止しているということになります。

誤差はどの程度

地球の公転速度は、秒速30キロメートル程度、光の速さの1万分の1です。

この程度の速度なら光の速度に比べて充分小さく、誤差範囲内です。

太陽が動いていたとしても地球の公転速度程度だということです。

媒質(エーテル)に対する太陽の速度は、ゼロから無限大までどんな値の採れるのですが、その中でたまたまゼロに近い値になっていると考えるしかありませんでした。

光を粒子としたときには

太陽と観測した全ての星が偶然動いていない

光を波としたときには

太陽が偶然動いていない

同じ偶然でも、まだ後者の方があり得そうなことです。

太陽がエーテルに対して偶然動いていないという考えは、相対性理論の発表まで信じられていました。

相対性理論がもたらしたもの

1905年 ”アルベルト・アインシュタイン” が相対性理論を発表しました。

相対性理論によると、光の速度は常に一定です。 

太陽が動いているとか動いていないとか関係なく、光の速度は一定と観測させるるのです。

これによって「偶然」を考える必要がなくなったのです。

別記事『地動説は正しく天動説が間違いというのは本当? 視点を変えて考えてみる』で説明しましたが、地動説は元々「太陽中心説」でした。

太陽という特別なものが宇宙の中心にあるという考えです。

しかし、この「太陽中心説」はニュートン力学によって否定されることになります。

太陽は何ら特別なものではなく、沢山ある星のひとつに過ぎなかったのです。

そしてブラッドリーの光行差が発見されます。

すると太陽はエーテルに対してほぼ静止している星になりました。

色々な速度で動いている星がある中で、ごくわずかしかない特別な星です。

しかし、太陽は相対性理論によって、再び特別な星からありふれた星のひとつに戻ったのです。


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