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慣性力とは? 2種類の慣性力があると考えた方がわかりやすい

慣性力
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物理で出てくる慣性力。わかったようでわからない、何だかすっきりしないという人も多いはず。

実は慣性力という言葉は、分野によって若干違った意味合いで使われているので、調べても混乱することが多いのです。

いっそのこと、2つの意味があるとした方が誤解も少なくわかりやすいと思ったので、その方向で説明してみます。

目次

慣性力は加速系で現れる見かけの力

慣性力は「力」とはいうものの、普通の力とは違います。

力が働くときには作用反作用の法則が成り立ちますが、慣性力では成り立ちません。

作用反作用の法則は物理の基本原理なので、慣性力は本当の力とは言えないのです。

そのため慣性力は「見かけの力」とも呼ばれ、見かけだけは力のように振る舞う仮の力に過ぎません。

なぜ、力でもないものを「慣性力」という言葉を使ってまで、導入するのでしょうか?

答えは「便利だから」それだけです。

加速している電車の中の慣性力

一定の加速度で加速している電車を考えてみます。

図のように、加速している電車の中では、つり革は後ろに揺れ、乗客は後ろに倒れそうな力を受けます。

加速する電車の慣性力

これを電車の外から見てみます。

電車だけが加速して、つり革や乗客は完全に取り残されるわけではないので、つり革や乗客にも加速するような力が働いているはずです。

電車の外からみた力

つり革には、ぶら下げている紐から力が伝わり(青矢印)、重力(黒矢印)と合わさって前方に加速する力が発生しています。

立っている乗客は、電車の床が加速しているので、床との摩擦力で前方に加速する力が伝わります。

乗客に働く力は、重心とは違う足元に働くので反時計回りに回転させようという作用(モーメント)が発生します。

そのままでは転んでしまいますが、上手くやれば何とかバランスをとることができるでしょう。

電車の中の視点

同じ状況を車内の視点で見てみましょう。

車内からは電車が加速しているかどうかはわからず、後ろに引張られるような力を感じます(赤い矢印)。

電車の中から見た場合

これが慣性力です。

加速している電車内の視点では、慣性力という力が発生したように感じるのです。

ニュートンの力学が成り立つ視点を慣性系と呼びます。

電車の外から見た場合は慣性系とみなすことができます。

しかし加速している電車内の視点は慣性系ではないので、ニュートンの力学は成り立ちません。

ただ、慣性力という作用反作用の法則に反した力を仮定すれば、それ以外は力学の法則をそのまま使えます。

力学の法則が成り立たないような視点でも、慣性力の導入で法則が使えるようになるのです。

ちょっと便利さがわかったのではないでしょうか?

慣性力を慣性系でも使ってみる

慣性力は、慣性系ではない視点(座標)を使ったときに導入することで、通常の力学を使えるようにできる便利なものでした。

もう一度慣性力を表した図を載せてみます。

車内の慣性力

電車の外からみた場合よりも単純でわかりやすいと思いませんか?

力が釣り合っているので理解しやすいのです。

それなら、車外からの視点でも慣性力を使ってみたくなります。

どうせ便利だから導入した見かけの力です。慣性系に導入しても便利な概念なら、使ってしまえばいいのです。

慣性系での慣性力

慣性系に慣性力を導入するとして、どのように考えればいいのでしょうか?

慣性力は電車が加速している方向と反対方向に働いています。加速に抵抗するような力です。

「慣性力は、加速されまいとする力」と考えてはどうでしょうか?

物体は、止まっている場合は止まったまま、運動しているときはそのまま等速直線運動しようとします。

その状態を保とうとする力を慣性力と考えることができます。

この場合は、慣性系での視点なので、加速系で現れる慣性力とは違うものと考えた方がいいでしょう。

ふたつ目の慣性力です。

ダランベールの定理

フランスの数学者 ”ジャン・ル・ロン・ダランベール” が1743年に提唱したダランベールの定理(ダランベールの原理)というものがあります。

加速しているものを表すときに、加速されないように抵抗する力を導入すると、力のつり合いで表現できるというものです。

その後「解析力学」という新しい視点の力学の誕生につながった重要な定理です。

この定理によって、慣性力を導入しても理論的に問題ないことが保証されているのです。

そして、慣性力を導入すれば、力のつり合いとして考えることができて、複雑な現象を扱うときに見通しがよくなることがあります。

まさに便利な道具です。

どんな時に便利なのか?

ダランベールの原理を使って慣性力を導入することで、すごく扱いやすくなる分野があります。

連続体の力学です。

連続体というのは、固体や液体、気体などの物質のことで、その内部に働く力などを取り扱うのが連続体の力学です。

先ほどの電車の例は、かなり単純化しています。

電車を加速させようとする力は、車輪の回転で発生します。

その力が電車の構造体に伝わり、電車自体に色々な力(内部応力)がかかることになります。

それによって、電車の枠組みが軋んだり、中にある座席なども変形したりします。つり革や乗客に働く力はその一部に過ぎません。

その変形などを扱うときは、慣性力を導入して静力学的(力が釣り合って動かない)な扱いをすることで、考えやすくなるのです。

慣性系と加速系の違い

わざわざふたつ目の慣性力など導入する必要があるのでしょうか?

別に慣性系での慣性力など仮定しなくても、電車内の加速系で考えれば問題ないようにも思えます。

でも、そうはいかない場合があります。

慣性力のつり合いを考えるとき、ちょっと複雑な現象では、場所によって慣性力の働く方向や大きさが違うことがあります。

特に液体などの流体では、場所によって流れの方向が違う場合を扱うことがほとんどです。

慣性力はそのままの流速を保とうとする力ですから、流れの方向が違えば慣性力の方向も違ってきます。

一方向に加速している加速系で表すことなどできません。

外からみた視点で、場所によって働く慣性力の方向が違うと考えるしかないのです。

2種類の慣性力とは?

2種類の慣性力とは次のようなものです。

  • 力学の法則が成り立たないような視点(非慣性系)でも力学を使えるようにするもの
  • 力学が成り立つ視点(慣性系)で力のつり合いで表すためのもの

同じものか違うものか微妙なところですが、別なものと考えていた方が混乱が少ないと思います。

解析力学までいくと、同一と考えられるのですが

遠心力も慣性力のひとつ

遠心力
Pixabay

遠心力も慣性力の一種です。

ですから、これまでと同じ議論が通用するはずです。

回転系で現れる遠心力

遠心力の例として、月が地球を公転することを考えてみます。

なぜ月はいつも同じ面を地球に向けている?月の自転と公転の周期が一致している理由というで取り上げていて、そのまま使えるからという理由です。

月が公転しているのは、力がかからなければ等速直線運動する月に地球の重量が働いて軌道を曲げるからです。

月の軌道

これを月と一緒に回転している視点でみてみましょう。

この視点(回転系)では、月も地球も止まっていると表されます。

月の遠心力

止まっていれば、月と地球の引力でどんどん近づき、そのうち衝突するはずです。

でもそうはなりません。

回転系にしたので、見かけの力が働くからです。

月と地球の引力に逆らって引き離そうという力、遠心力を考慮しなければならないのです。

≫≫月の位置と満潮の位置の図は間違い?潮汐力と海水面の関係を考えてみた

慣性系で働く遠心力

では、回転系ではなく、慣性系で遠心力を考えることはできないでしょうか?

ふたつ目の慣性力に相当するものです。

慣性系での遠心力

力が釣り合っていて、わかりやすいような気がします。

このような単純な場合なら、遠心力を導入しなくても大丈夫ですが、複雑になると遠心力を導入して力のつり合いとして考えた方がわかりやすいこともあります。

でも遠心力の場合は、「遠心力は回転系で現れるもので、慣性系で遠心力を使うのは間違いだ」と慣性系での導入を認めない立場の人も多いようです。

しょせん慣性力の一種なので、遠心力にも2種類目を認めてもいいと個人的には考えています。その方が問題を解きやすいこともあるので。

もちろん、ダランベールの原理に従って、加速を力だとみなしていることを頭においてなければいけません。

ちなみに下の記事では連続体の扱いで、こっそりふたつ目の慣性力(回転系ではないですが)を使ってます。

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