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特許のデータはねつ造だらけ? 不正論文どころじゃないその実態

特許裁判
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学術論文のデータねつ造が、たびたび話題にのぼります。

では、特許はどうでしょうか?

実は特許でもデータねつ造はよくあることです。

おそらく学術論文とは比較にならないほどありふれているでしょう。

金銭、利害関係、法的権利が伴う特許の方が厳しいと思われがちですが、実はそうではないのです。

目次

特許データの実状

多くの特許には「実施例」として、実験データが記載されています。そこにねつ造データを書いているケースは意外に多くあります。

時々話題に上る学術論文とは比べものにならないほどでしょう(おそらく)。

特許データ捏造の法的処分

学術論文があくまで研究成果の発表なのに対し、特許は金銭や利害、法的権利が発生します。

そのことを考えれば、特許の方がねつ造に対して厳しい態度がとられると思う方が多いと思います。

確かに学術論文と違い、特許でのねつ造には法的処分があります。

【特許法197条】(詐欺の行為の罪)

詐欺の行為により特許、特許権の存続期間の延長登録又は審決を受けた者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。

https://scrapbox.io/4IP-Law/%E7%89%B9%E8%A8%B1%E6%B3%95197%E6%9D%A1

それなのに、特許データのねつ造はまかり通っているのはなぜでしょう。

データ捏造の証拠はない

ひとつ言っておかないといけないことがあります。

特許データの捏造があるというのは、あくまでも個人の意見です。証拠はありません。「このデータ捏造しました」と言う人はいませんから。

30年間、様々な特許を見てきた人間の実感だと思ってください。

「そんなの信用できない」と言われても仕方ありません。しかし、ほぼ間違いなくねつ造だと思う特許に何度もであってきました。

それなりの知識があれば、すぐにわかるほど稚拙な捏造が多いのです。

もちろん会社によって違います。全く捏造などしていない(だろうと思える)会社も沢山あります。

でも……、有名な会社でも捏造していたりするのが悲しいところです。

何故特許でねつ造が横行しているのか

法的処分もあるのに、なぜ特許でデータねつ造が横行するのでしょうか? 

特許ではデータの質は問題にならないというのがひとつの理由です。

元々、特許取得にはデータの添付は必要ありません。アイデアだけでも特許になります。

もちろん、夢物語では特許にはなりませんが、特許の審査官が、実現可能で、実用価値があると判断すれば、データがなくても特許になるのです。

特許に書いてある実験データは、あくまでも「この発明は実現可能で、実用価値に供する効果があります」と審査官を納得させるための補助的な役割なのです。

そのため、実験方法に関しての審査などありません。いい加減な方法でやったいい加減なデータでも、それが理由で特許が無効となるわけではないのです。

言ってみれば「こんな実験じゃ効果があるとは言い切ることはできないが、何となく効果がありそうな気がする」と審査官に思わせることができれば成功です。

「それなら、適当にデータをでっちあげようか」と思う人が出てきます。元々きっちりした実験ではありません。再現性も必要ありません。

もう一度やってみたら「今回は違う結果になりました」でいいのなら、わざわざ実験する必要なんてないだろう、といった感じです。

「このデータおかしいんじゃないか?」

と言われても

「おかしいな。前は確かにこのデータがでたのに。あのときのデータは偶然だったのかな」

みたいな言い訳が可能です。

特許法で禁止されているのは、「嘘をつくこと」です。適当な実験をやって偶然出たデータを書くことは何の問題もありません。実験結果を勘違いしていても大丈夫です。

やってもない実験をやったかのように書くのは「嘘」ですが、適当な実験で「偶然出たデータでした」や「結果を勘違いしていたデータ」と区別できず、嘘だと証明することは実質不可能なのです。

これが、特許でデータねつ造が横行している理由です。

特許の実施例

特許は「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」が必要(実施可能要件)です。

実施例は、実施可能要件を満たすようにするという意味合いもあります。

ですが、出願人はできるだけノウハウを隠したいので、実施方法を詳細に書きたくないという思惑もあり不明瞭になりがちです。

特許データねつ造の罪悪感

こんなことを繰り返していると、特許データねつ造に罪悪感がなくなってきます。

最初に書いたように、読むだけで「間違いなくねつ造だ」とわかる稚拙なねつ造をするのは罪悪感がない証拠です。罪悪感があれば、ねつ造するとしてもばれにくくする工夫くらいはします。

例を挙げてみます。

「全く同じ実験をやっても、データが15だったり16だったりする程度はばらつく実験のはずなのに、10回やって10回とも15.375という値になっている」

こんなデータです。誰が考えても、コピペしただと思うでしょう。

適当に15.2、15.9……と数字を作るくらい大した手間ではないのに、それすらしていないのです。

「嘘を書いたら犯罪」なのに「嘘を書いても嘘だと証明できない」そのことが、こんな状況を招いているのです。

それに、やっているのは自分だけではありません。特許公開を見てねつ造だとわかるものを見ていると「自分だってやっていいだろう」と思う、これも罪悪感を無くす理由ではないでしょうか?

特許出願のプレッシャー

また、特許を出願しないといけないというプレッシャーもあるのではないでしょうか。

会社から特許の出願件数のノルマを課されて、ねつ造に走ってしまうのです。

最近は、このようなノルマを課す会社も少なくなり、実効性のある発明だけを特許出願するという(当たり前の)風潮があるため、稚拙なねつ造は大幅に減っています。

*グローバル化によって、日本だけでなく外国への出願が必須になって費用がかさむため

また、コンプライアンスの意識が高まったことも、ねつ造が減った理由でしょう。

特許データと論文データのねつ造のリスク

特許
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特許データと論文データのねつ造を比べると、どちらの方がリスクが高いのでしょうか?

論文データねつ造はハイリスク

学術論文のデータねつ造は、リスクが非常に高いものです。

学術論文では、特許より詳細に実験方法を記載する必要がありますし、大事な研究なら他の研究者が必ず追試します。

ですから特許よりねつ造は難しいですが、ねつ造だと完全に証明することができないのは同じです。

再現ができず、実験に疑いが持たれても、不明な因子があるのか、何が混入したのか、ねつ造だったのか、証明はできません。

しかし、疑いをもたれ、調査され、状況がわかってくると、「ほぼねつ造に間違いない」と判断することができます。

そうなると、専門家から「こいつは信用できない」というレッテルを貼られます。これは学者生命の終わりを意味します。

学術論文でのデータねつ造はそれほどリスクが高いのです。

特許データねつ造のリスクはどうか

特許の場合も、専門家なら状況証拠から「ほぼねつ造に間違いない」と判断できます。

でもそれだけです。そのことを証明できず法的処分が下らなければ、あまり問題になりません。

もし、社内で「こいつは信用できない」と思われたとしたら、その後の処遇に支障が出るでしょう(それでも解雇される訳ではありません)。

でも、特許をねつ造する風潮の会社なら、そのリスクもありません。会社によっては、「こいつは嘘をつくのが上手く、特許を権利化して会社に利益をもたらす奴」と評価が上がるかもしれません(あって欲しくないですが)。

嘘がばれて、特許法の規定で処罰を受ける可能性がないのであれば(法律には規定されているが適用される可能性はほぼない)、リスクがないのです。

特許法が適用される危険性

とは言っても、法律で禁じられているのですから、処罰される可能性はゼロではありません。どの程度、その危険性があるのでしょうか? 

ます、権利化しない特許については何の危険性もありません。

特許法で禁じられているのは、「嘘をついて特許権を取得すること」です。権利化されなければ、嘘をついても法律違反ではないのです。

特許というのは、特許権を得るためだけに出願するものではありません。

権利にならなくても、他社をけん制するとか、他社に特許を取られるのを防ぐ、という目的で出願することがあります。元々権利化るすつもりがないものです。

その場合なら法律違反にはならないのです。

権利化された場合

権利化されたとしても、それだけで法的処分されることは、まずありません。

特許庁の審査官だって専門家です。「このデータは間違いなく嘘だ」というものはわかります。それが証明できるのなら、特許を権利化しないでしょう。

しかし「このデータは嘘っぽい」程度なら普通に審査します。審査官も人間ですから、嘘っぽくて信用できない特許は審査が厳しくなるでしょう。しかし、嘘だと証明できないのにそれを理由に拒絶することはできません。

嘘だと証明できないから特許になったのですから、権利化されたからといって処罰されることはありません。そもそも、嘘かどうか判断して刑罰を下すのは特許庁の仕事ではありません。

ですから、権利化された段階ではまだ処罰の危険性はほぼありません。

裁判になった場合

問題は裁判になった場合です。

もし、あなたが嘘のデータをで権利化した特許を、他の会社が侵害していた場合、その会社を訴えることができますか?

裁判になっても嘘が証明されて処罰される可能性は、少ないかもしれません。

でも、その勇気がありますか? 

嘘だと判断して処罰を下す権限のある裁判官に、身をゆだねることができますか?

訴えた相手が「このデータはねつ造だ」と言ってくるかもしれません。それに対して「ねつ造ではありません」と裁判所でどうどうと答えることはできますか?

ねつ造ではないことを示すために、実験した本人(あなた)の宣誓書を裁判所に提出できますか?

私はできません。実際には処罰される可能性はほとんどないとしても、裁判所に嘘の供述をする勇気はありません。

となると、せっかく特許を成立させても、権利行使できない意味のない特許になってしまいます。

ねつ造は減っている

最近、企業ではコンプライアンスが重視されてきています。法を遵守することだけでなく、法以外の規律を守ることが企業にとって大事だという時代です。そのため、特許のデータねつ造も、明らかに減っています。

少なくとも日本企業は……。

しかし、今はグローバルな時代です。特許を巡る競争相手も日本企業とは限りません。というより、日本企業である方が少なくなっています。

ねつ造なんかやめてフェアにしよう、なんて日本企業だけでやっても意味がありません。本当に難しい時代です。

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