当たり前すぎて普段は気づかないのですが、考えてみればゴムは不思議な物質です。

あれほどよく伸びて、離すと急激に縮む物質は他にはありません。

それだけではありません。

ゴムは「特別よく伸びる物質」というだけではなく、伸び縮みする仕組み自体が不思議な物質なのです。

このゴムが伸び縮みする現象「ゴム弾性」をわかりやすく説明してみます。

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ゴム弾性の不思議さの発見

ゴムが伸び縮みする現象の不思議な性質に最初に気づいたのは、イギリスの科学者 ”ゴフ(Gough)” です。

※ゴフの日本語表記は、ガフとかグーとかバラバラなので、Goughという英語表記を併記しました。

ゴムといっても天然ゴム、それも生ゴム(現在のゴムのようにしっかりと形を保てない)しかなかった1805年のことです。

ゴフが発見したゴムの不思議は次のようなものでした。

ゴムを伸ばしたときの温度変化

ゴフが最初に気づいたのは、ゴムを伸ばすと温度が上がるということです。

ゴフはゴムを唇に当てた状態で引っ張り、温度が上がることを確認したのです。

有名なので試したことがある人もいるかもしれませんし、これを聞いてやってみようと思う人もいるかもしれません。

でもほとんどの人は温度上昇に気づかないと思います。

ゴフは、盲目の科学者で特別感覚が鋭かったので何とか気づくことができた、その程度の温度上昇ですから。

そして、手を放して縮ませると一瞬で温度が元に戻ることも見つけました。

温度が高いほど縮む力が強い

ゴムにおもりをつけて伸ばした状態で、温度を変えてみます。

すると、温めるとゴムが縮んで短くなり、冷やすとゴムが伸びて長くなります。

ゴムは温度が高いほど縮もうとする力が強くなるのです。

これもゴフが見つけたゴムの性質です。

伸ばしたときの温度上昇も、高温で縮む力が強くなることも、当時の知識では説明できないことでした。

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バネと比べてみる

ゴムのように、よく伸びるものとしてバネがあります。

バネは物質ではなく構造物ですが、バネを作っている材料を伸ばしたり縮めたりするときの性質が現れます。

言ってみれば、バネ以外の物質の性質を表すものなので、ゴムの性質と比較してみましょう。

伸ばしたときの温度変化

■ゴム:温度が上がる

■バネ:温度は変わらない

縮む力の温度による変化

■ゴム:温度が高いと力が大きくなる

■バネ:温度が高いと力が小さくなる

実際はそれほど単純ではありませんが、多くの場合はこう考えていいでしょう。

弾性という性質

輪ゴム

最初から(タイトルから)ゴム弾性という言葉を使っていますが、改めて弾性とは何か説明しておきます。

弾性というのは、力をかけると変形して、力を外すと元の形に戻る性質のことを言います。

固体は弾性という特性を持っています。

硬いものの場合は力をかけてもほとんど変形しませんが、実際にはわずかに変形して力をのぞくと元の形に戻っているのです。

弾性が起きるしくみ

固体が弾性という性質を持つ理由をざっくりと説明します。

固体は、通常は分子が規則正しく並んだ結晶です。

ここに力を与えると、原子同士の距離が変わります。

引張ると原子間の距離は広がり、圧縮すると原子間の距離が縮まります。

元々、原子間の距離は一番エネルギーが低い状態だったので、その距離を無理やり変えられるとエネルギーが高くなり元の状態に戻ろうという力が働くのです。

弾性体を変形したときのエネルギー保存則

この現象をエネルギー保存則の観点でみてみましょう。

物体を変形させるときには、力をかけて変形させます。

そのためにはエネルギーが必要です。

変形させるために使ったエネルギーは、変形した物質の弾性エネルギーとか歪エネルギーと呼ばれるものになります。

原子の模型でいえば、原子間の距離が変わることによる位置エネルギーがその実態です。

このようにしてエネルギーが保存します。

元に戻るときのエネルギー保存則

力を除いたときには元の形に戻り、弾性エネルギー(歪エネルギー)が開放されます。

その時に弾性エネルギーは通常は熱に変わります。

このとき、すぐに元の形に戻るのではなく、勢いがついて反対方向に変形して、また元に戻ろうとして、というのを繰り返して振動しながら徐々に熱に変わっていきます。

バネが伸び縮みを繰り返している状況は想像できると思いますが、硬い物質の場合でも同じように振動します。

硬いものを叩いたときに音がするのは、この振動が空気に伝わって空気が振動するからです。

ゴム弾性の不思議な挙動

rubber

ゴム弾性は、弾性という性質は同じでも、これとは全く違った仕組みで起こります。

そのために、他の固体とは違った挙動を示すのです。

ゴムの構造

ゴムは、ひものように長く連なった分子で構成されています。

この長い分子は、熱によってくねくね自由に動きます。

これだけでは、弾性は発現しません(変形しても元に戻らない液体状態)。

形をとどめるために、長い分子をところどころで束ねて固定した状態になったものがゴム弾性を示します。

ゴムを引張ったらどうなるか

くねくね分子と結束点からできたゴムを引っ張ると、こんな感じになります。

ゴムの構造

分子は相変わらずくねくね動いていますが、結束点同士の距離が変わります。

通常の固体の弾性は、原子間距離がエネルギーが低い距離から高い距離に変わりました。

でもゴムの結束点同士には何の力も働いていません。

結束点の距離が変わってもエネルギーには何の変化もないのです。

伸ばしたゴムが元に戻るのはなぜか

引張ったゴムから手を離すと縮んで、元の長さに戻ります。

結束点同士に引力が働いている訳ではないのに、なぜ元に戻ろうとする力が発生するのでしょうか?

それは、くねくね動く熱運動によるものです。

分子は、結束点の距離を元に戻そうなどとは思っていません。

勝手気ままにくねくねするだけです。

でも、結束点と結束点の間にある分子の長さは決まっています。

勝手気ままにくねくねして、偶然まっすぐになる可能性はとても低いでしょう。

偶然、両端が同じ位置にくる可能性も低いでしょう。

その間に確率の高い距離があるはずです。

分子は勝手気ままに動いていても、全体としては一番可能性の高い距離になる傾向があるのです。

それが元の長さです。

ゴム弾性のエネルギー保存則

通常の固体の場合、変形させるときに使ったエネルギーは弾性エネルギー、歪エネルギーになるのでした。

これは原子の位置エネルギーに起因するものです。

ゴムの場合には、位置エネルギーの増加は起こりません。

それでもエネルギー保存則は成り立っていないといけません。

では、変形させるときに使ったエネルギーは、一体どうなるのでしょう。

「熱になる」

これが答えです。

ゴフが感じ取った温度上昇の正体です。

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高温で弾性力が強くなる理由

次に、ゴム弾性が温度が高いほど強くなる理由です。

一般に温度が高いほど、分子運動が活発になります。

ゴムでいえば、高温ほど激しくくねくねするということです。

ゴム弾性はこの熱運動によって起きるものなので、温度が高くなるほど元に戻ろうとする力が強くなるのです。

通常の固体の場合は、弾性の原因は位置エネルギーです。

温度が高くなって分子運動が大きくなり運動エネルギーの方が影響が高くなれば、位置エネルギーの効果は小さくなります。

そのため(普通は)温度が上がると弾性が小さくなる(弾性率が低くなる)のです。

弾性体の難しさ

この記事では、かなり単純化した説明をしています。
弾性という性質はかなり複雑ですし、ゴムっぽい弾性を示すものもあります。

ゴフ・ジュール効果とエントロピー弾性

ゴフが発見したゴムの性質は、その後に誕生した熱力学を使って ”ジュール” が研究を進めて理論づけをしました。

そのため、ゴムを伸ばしたときに温度が上がる現象は「ゴフ・ジュール効果」と呼ばれています。

また、通常の固体の弾性はエネルギーに起因しているのに対し、ゴム弾性はエントロピーという性質によって発現します。

そのため、「エントロピー弾性」と呼ばれています。

通常の固体の弾性エネルギーや歪エネルギーは、通常の力学の枠組みにすんなり適用できます。

でもゴムは、熱力学とか統計力学という1800年代後半に生まれた体系を使わないと説明できない特殊なものだったのです。

エントロピー弾性の元になるエントロピー的な力については、姉妹サイト”ちびっつプラス”で熱力学的な意味合いを詳しく説明しています。

数式も使って説明していますが、気になる方はぜひ読んでみて下さい。

≫熱力学を知らなくてもわかるエントロピー的な力の導出と力の一般化

※参考:盲目の科学者ゴフとエントロピー弾性


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